本業の汚染とは 経営者が知っておきたい定義と解決策

目次

本業の汚染

企業が永続的に成長するためには、現在の収益の柱である既存事業(本業)が安泰なうちに、次の収益の柱となる新規事業を生み出すことが不可欠です。

しかし、多くの場合、社内起業は「本業の汚染」という致命的な障害によって失敗に終わります。

本記事では、新規事業の成功を妨げる最大の要因である「本業の汚染」の定義、その具体的な症状、そしてそれを回避するための組織的な対策について詳しく解説します。

「本業の汚染」とは何か

「本業の汚染」とは、現在確実に利益を稼いでいる既存事業の常識や都合、成功体験を、未成熟な新規事業に押し付けることで、その成長を妨げてしまう現象を指します。

本来、企業はベンチャー企業に対して、ヒト・カネ・情報・信用といったあらゆる経営資源において圧倒的に有利な立場にあります。

しかし、ひとたび「本業の汚染」が発生すると、これらの強みは一転して、新規事業の足を引っ張る弱みへと変わってしまいます。

これは、多くの日本企業が抱える「構造的な失敗要因」であり、社内起業が失敗する原因の99%を占めているといっても過言ではありません。

本業優先の論理が生む「顧客不在」

企業は長年の歴史を通じて、本業を最適化するようにすべてが設計されています。

そのため、無意識のうちに「顧客を見る以上に、自社を見てしまう」という思考のクセが染み付いています。

例えば、工場の稼働率を維持したい、既存の営業ルートを活用したい、といった「供給者側の都合(プロダクトアウト)」が、本来優先されるべき「顧客の真のニーズ(マーケットアウト)」を覆い隠してしまいます。

この自社都合を新規事業に押し付ける構造こそが、イノベーションの芽を摘んでしまう本質的な原因です。

「本業の汚染」の具体的な症状

現場でよく見られる「本業の汚染」の具体的な症状には、以下のようなものがあります。

兼務によるリソースの分散

まだ売上の小さい新規事業に専任の人員を割くことを惜しみ、「本業との兼務」を命じます。

その結果、担当者は本業のタスクに追われ、新規事業が中途半端になるばかりか、本業の質まで下げてしまうという悪循環に陥ります。

短期的な収益性の追求

立ち上げ初期の不確実な段階で、3年後の売上利益の明確な根拠を求めたり、今期の決算を優先して新規事業の予算を削ったりします。

今期中に利益を生まないものを「非」とする管理会計のルールは、未来の収益を育てる新規事業とは根本的に相性が悪いのです。

減点主義の評価制度

成功確率よりも失敗確率が圧倒的に高い新規事業において、既存事業と同じ減点方式の評価を適用します。

挑戦して失敗すれば評価が下がる環境では、優秀な人材ほど新規事業に関わりたがらなくなり、組織から活力が失われます。

「大人」と「赤ん坊」の比喩

この問題を理解する上で有効なのが、「大人」と「赤ん坊」の比喩です。

本業は何十年もかけて磨き上げられた熟練の事業構造をもつ「大人」であり、新規事業は生まれたばかりの、あるいは生まれる前の、不確実性の塊である「赤ん坊」です。

赤ん坊に対して、「自分のお金は自分で稼げ」「時間通りに正確に動け」といった大人のルールをいきなり押し付けても、育つはずがありません。

新規事業という赤ん坊が健やかに育つためには、本業の汚染にさらされないための「環境」を整えることが、経営者の最大の責務となります。

汚染を回避するための「3-2-1」の施策

本業の汚染を回避し、新規事業を再現性をもって成功させるためには、「3-2-1」の施策が有効です。

① 3つの「切り離し」

資金の切り離し: 新規事業の予算を投資勘定として本業のP/L(損益計算書)から切り離し、短期的な業績変動に左右されないようにします。

意思決定の切り離し: 本業の重層的な会議体から切り離し、社長と担当責任者による少人数かつ迅速な意思決定体制を構築します。

評価の切り離し: 既存の減点主義ではなく、「挑戦したこと自体を評価する」加点主義の評価体系を導入し、成功に応じたインセンティブを設計します。

② 2つの「機能」

支援機能: 本業との利害調整や社内調整(内戦)を肩代わりし、現場の担当者が事業開発に専念できる環境をつくる接着剤の役割です。

型化機能: 成功や失敗の経験を「組織の知見」として蓄積・可視化し、次の事業開発に活かせるようにします。

③ 1人の「戦士」

エース人材の投入: 新規事業を「自分ごと」として捉え、何としてでもやり抜く覚悟をもったエース級の人材を専任で配置します。

まとめ:経営者の「意志」が防波堤となる

本業の汚染を回避できるかどうかは、最終的には経営者の「意志」にかかっています。

社長自らが「本業のルールは、新規事業には適用しない」と宣言し、組織的な防波堤(出島戦略など)を築くことで初めて、新規事業は汚染されることなく、独自の「勝ち筋」を見出すことができます。

自社の努力がすべて「無化」される破壊的イノベーションの荒波が来る前に、本業の汚染を断ち切り、新たな収益の柱を育てる体制を整えるべきです。


この記事の引用元『新規事業を必ず生み出す経営』(新規事業家 守屋実著)

「35年間で57の事業創出に挑む」─新規事業のリアルな勝負所を知り抜いた著者が、投資リスクを最小に抑えながらスケールさせる《収益事業創出の全ノウハウ》を初公開!
 99%の確率で陥るムダな失敗を回避し、事業の成功確率を高める「3つの型」と、自社の強みを上手に活かし構造的な弱点を克服する「3つの策」を軸に、再現性高く事業を生み出す仕組みづくりの急所を網羅。
 著者みずから資金を投じて挑んだ事業の実例をあげながら、数百万円の元手から何十億、何百億円規模の事業を生み出す実戦実務を明示した、経営者垂涎の書!

著者 守屋実氏について:30年で50余りの事業開発に関わる、わが国屈指の「新規事業のプロ」。自ら資金を入れて役員に就き、事業責任を負うスタイルを基本とし、医療、介護、ヘルスケア、印刷、金融、教育、農業、製造業…と、様々な分野の新規事業に従事。2018年に「ブティックス」「ラクスル」を2カ月連続で上場に導いたほか、参画したスタートアップが毎年のように上場を果たしている。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

日本経営合理化協会 出版局です。「ビジネスを成功に導く」をコンセプトに経営用語と、その活用法を解説します。

目次