経営の「王道」と「覇道」
社長の思想が企業の未来を決定する
事業を意図して繁栄させるための「戦略の三要素」において、環境対応、事業体質(受注か見込みか)と並んで極めて重要なのが「社長の考え方(思想)と手腕」です 。この社長の考え方において、進むべき方向性は大きく二つに分かれます。それが「量や規模」を追求する「覇道(はどう)」と、「質」を追求する「王道(おうどう)」です。
自社をどのような会社にしたいのか、社長自身がこの二つの方向性のどちらを重視するかを明確に決定しなければ、経営は迷走し、念願を達成することはできません。以下、それぞれの本質と戦略的特徴について解説します。
規模と制覇を狙う「覇道」の戦略
覇道とは、市場における「量や規模」の拡大を第一義とする考え方です。この道を歩む社長には、一店から百店、千店へと自社のノウハウを普及させ、地域や国、さらには世界を制覇しようとする強烈な野望と執念が求められます。
市場の選択と集中
覇道を追求するには、まず大きな市場を狙う必要があります。事業規模はターゲットとするマーケットの人口や世帯数、得意先数によって規定されるため、それらを超えて事業が大きくなることはありません。
「無限大主義」の思考
スタート時点から「一店主義」ではなく、多店舗展開や全日本的・全世界的な展開を祈るように強く想念し続けることが不可欠です。社長が深く想念しているからこそ、間違いのない手が打て、勢いが増すのです。
覇道のリスクと対策
覇道を行く企業が最も陥りやすい罠は、メイン事業で市場が飽和(満杯)になった際、次の一手を見失うことです。圧倒的なシェアを握った段階で、次に柱とする多角化事業が用意されていなければ、企業の永続的な繁栄は築けません。そのため、常に次の成長のための「規模の戦略」を準備しておく必要があります。
質と永続を重んじる「王道」の戦略
王道とは、企業の「内容や質」を高めることを追求する考え方です。規模をむやみに追わず、長く続けていくこと、そして内容を良くすることを最大の課題とします。
「単位当たり」の評価
王道の経営では、ライバルとの比較において「単位当たり」という視点で評価を下します。例えば「社員一人当たり」の利益や資産、「一坪当たり」の売上や粗利益など、個別の数値を徹底的に磨き上げることが、質の向上に直結します。
希少価値とステータス
王道を行く企業は、他社には真似できない独自の哲学や美学を商品に込めます。例えば高級スポーツカーのフェラーリは、ブランドの希少価値を守るために、需要があってもあえて生産台数をコントロールしています。このように「いつでもどこでも手に入る」大衆的なものとは対極の、「あそこでなければならない」という独自の地位(オンリーワン)を築くことが、王道の真髄です。
永続への強い哲学
王道には、時代の変化に耐えうる「不変の哲学」が必要です。数百年続く京都の老舗旅館のように、一子相伝で経営手腕を伝え、特定の拠点に特化して質を極める姿勢が、何世代にもわたる繁栄を支える土台となります。
社長に求められる「決断」と「手腕」
王道と覇道は、どちらが優れているというものではありません。重要なのは、社長が自らの人生と事業計画を照らし合わせ、どちらの道を進むのかを明確に「決める」ことです。
ハイブリッドな追求
まれにキーエンスのように、圧倒的な営業利益率(質)と巨大な売上(規模)を両立させる企業も存在しますが、基本的には目的も方法論も異なるため、社長自身が強い思想を持って舵取りをしなければなりません。
「成長拡大」と「安定」の両輪
どちらの道を選ぼうとも、事業の永続には「成長拡大」と「安定」の同時追求が命題となります。覇道を突き進む中でも安定を築くシステム(リピートの仕組み)は必要ですし、王道を守り続ける中でも顧客を増やす努力を怠れば、会社はジリ貧になってしまいます。
経営の襷(たすき)を繋ぐ
社長が描く「長期繁栄のグランドデザイン」において、王道か覇道かの選択は、後継者や子孫に引き継がれるべき「経営の襷」の最も重要な芯の部分となります。自分の一代限りで終わらせるのではなく、十、二十、さらには百年先までを見据え、自社の立ち位置を決定し続けることこそが、社長に課せられた最大の職務です。
経営は手品ではなく、社長が決定した「こっちだ」という方向性によって決まります。社長自身が感性を研ぎ澄ませ、自社の将来像を壮大な青写真として描き切るとき、企業は「必然」としての繁栄を享受できるのです。


